Xさんは、YさんCさんとともに、被相続人Aの相続について、不動産をどのように分割するかを相続人の間で話し合いをしました。
その話し合いで、不動産はYさんが取得し、売却ののちに法定相続分に対応した代償金で遺産分割をするという協議をして、遺産分割協議書を作成しました。
遺産分割がされた後、しばらくXさんはYさんからの連絡を待っていましたが、Yさんから一向に連絡もなく、現在どのようになっているのかも全然わからない状態でした。
そうしたところ、Yさんが不動産を売却したことをXさんは知りました。
そこで、XさんからYさんへ連絡をしてみたが、Yさんは全く返事をすることもなく、Yさんは一向に相続された代金を支払いませんでした。
そこで、困ったXさんは、今後のことについて弁護士に相談することとなりました。
依頼を受けた弁護士は、まず、売却代金やそれにかかった諸経費を確定し、支払いを求める金額を確定することから始めました。
そこで、Yさんが依頼していた不動産業者に連絡をして、不動産売買の資料について開示を求めることにしました。
ところが、遺産分割協議書には不動産はYさんが取得するとされており、Yさん単独での不動産の売却となっていたため、売主ではないXさんからの問い合わせには答えられないと回答されました。
そこで、Yさんに直接連絡を取って交渉をすることにしました。
しかし、弁護士から連絡をしても、郵便を受け取らず、郵便局から返送されてしまう状況でした。
返送された郵便物から、別の住所に転送されていることがわかったため、その住所に連絡することとしました。
そうしたところ、Yさんから連絡があり、不動産の売却の内容や諸経費等の資料が送られ、無事法定相続分に対応する代償金の支払いを受けることができました。
本事案で問題となった部分について解説します。
遺産の相続が発生した場合に、相続人の間で話し合いを行い、相続人の間で作成した遺産分割協議書で遺産分割を成立させるということは少なくありません。
しかしながら、専門家の知識を借りずに作成をした場合、協議書の内容が不十分であり、相続の解決に至らない内容の遺産分割協議書を作ってしまっているケースも多々あります。
遺産分割を成立させる段階で、支払いなどが十分に確保できるようになっているか、代償金や換価分割の場合、その金額が協議書で明確になっているかというところが大切になります。
例えば、今回のケースのように、相手にどれだけの金額を請求したらいいのか、いつの段階で請求ができるようになるのか不明確な協議書を作成してしまうと、トラブルを防ぐために作った協議書なのに、さらにトラブルを生むことにもなりかねません。
遺産分割協議書の作成は、近年では検索をすればサンプルも出回っており、便利になってきていますが、全てのリスクを網羅できるわけではありません。
その人それぞれの事情にあった解決内容を目指すのであると、一つ一つの協議書の文言を精査していくことが不可欠です。
遺産分割は、協議書を作成すればそれで終わりなのではなく、協議書に記載されている分割内容が実行されなければ意味がありません。
もし本件で、Yさんから資料等の開示がなければ、訴訟をしなければならず、訴訟の手続きによって資料の開示を求めなければなりませんでした。
どのような内容の分割にするのか、というところだけではなく、どのような流れで支払いの確保をしていくのか、確保するための方法をどのようにするのかというところも協議書を作成する際には考慮する必要があります。
協議書の記載が不明確・不明瞭だと、その協議書の文言や記載をどのように解釈すればいいのかということがわからなくなります。
解釈の仕方が不明確だと、ともすれば、話し合いの際に考慮に入れていない事項まで考慮に入れなければならないこともあり、おもわぬ不利益が出てしまうこともあります。
また、遺産分割の結果の分割方法が、遺産分割の交渉の経緯や、遺産分割協議書の文言や内容により、代償分割とみるべきなのか、換価分割とみるべきなのかというところも変わってくる可能性もあります。
分割の方法によっては、遺産分割後に相続税とは別に贈与税や譲渡所得が発生することもあり、これらを踏まえない分割方法は大変危険なことといえます。
遺産分割協議書を作成するときには、分割方法がどのようなものなのか、遺産分割後の手続きが問題なく行えるのか、そういった点も踏まえて検討することが大切になります。
協議書に基づいて支払いをしないということになると、訴訟を提起して、支払うように裁判所へ求めることになります。
判決が出ても支払わないのであると、強制執行という手続きを行います。
分割後の強制執行についてはこちらをご覧ください。
このような事態を避けるためには、まずは相続に強い弁護士に相談することが解決への第一歩となります。