Aさん(加害者。男性。)は、同じアパートに住んでいるVさん(被害者。女性。)宅に忍び込み、室内にあった下着を盗もうとしたところ、室内にいたVさんと遭遇し慌てて逃走しました。
Vさんは直後に警察に通報し、まもなく警察が到着しました。
その頃Aさんは自室に帰りましたが、鳴り響くサイレンの音で自分がやってしまったことの重大さに気付かされました。
それと同時に、自分のやってしまったことが警察に近くバレてしまうのは明らかであるから、どう対応すべきなのかということを聞きに相談にやってきました。
相談に入った弁護士は、以上の事実経過を聞かされました。
本件では、加害者と被害者が同じアパートに住んでいることから、警察がAさんを犯人であると特定した場合、AさんがVさんに接触する可能性が高いということを主な理由として逮捕される可能性が見込まれる事案でした。
また、建物の防犯カメラ映像などから警察がAさんに辿り着くまでは時間の問題である可能性が高いとも考えました。
そこで、弁護士同行のもと警察署に自首し、身元引受人となる家族や当面のAさんの生活場所などを取り付けて逮捕・勾留のリスクを下げた上で 、被害者の方との示談交渉をするということで弁護方針を立てました。
相談は夜でしたが、弁護士は緊急性が高いと判断し、次の日に自首をするということでAさんと合意しました。
翌日、弁護士同行のもとでAさんは警察署に自首しました。
取調室に弁護士が同行することはできませんが、取調室のすぐ外で弁護士は取り調べが終了するまで待機し、Aさんが取り調べに対して不安を覚えた場合にはいつでも相談ができる態勢を整えていました。
昼過ぎに始まった取り調べは適宜何度か休憩を挟みながら夕方頃には終了しました。弁護士は、AさんがVさんと同じ住居に住み続けることは望ましくないので、可及的速やかに転居をするということを伝えました。
また、弁護士は、自分がAさんの代理人であることを証明する弁護人選任届を警察官に提出し、Aさんとともに警察署を出ました。
上記の行動が功を奏し、Aさんは逮捕・勾留されることなく警察署から帰宅することができました。
本件は、在宅事件として進行していくこととなりました。しかしながら、通常のスピードよりもかなり早く、1週間経たずして検察庁に事件が送致されることとなりました(通常は最低でも1ヶ月、大体2〜3ヶ月が多い。)。
もっとも、弁護士は自首同行の際に、示談交渉のための下準備として警察官に対して被害者の了承のもと被害者の連絡先を聞いてもらうようお願いしていたので、早い段階で入手することができました。
そのため、送検が早かったもののそれに焦ることなく示談交渉をすることができました。
Aさんの誠意をお伝えすることで、最終的にVさんは賠償金を受け取り被害届を取り下げていただきました。
自首が無事成立したことや、Vさんと示談が成立したこともあり、Aさんには無事不起訴処分(起訴猶予)が下されました。
何といっても、Aさんの初回相談が早かったのがよかったです。初回相談が遅かったために初動が遅れてしまい、「もう少し早く相談してもらえていれば・・・」ということは決して少なくありません。
初回相談が早く、自首を速やかに行えたためAさんが捜査機関から逮捕・勾留されることを避けることができたのもポイントです。
逮捕されてしまった場合、家族や職場に犯罪事実が知られてしまうこともあります。逮捕されれば、最長で23日間は外部から遮断された施設で生活することとなるので、職場に出勤することができません。
そのため、職場をクビになってしまうおそれも出てきます。
一方で、逮捕・勾留を避けることができた場合、平日に取り調べが入り仕事を休まなければならない可能性はありますが、必ずしも職場に犯罪事実が知られてしまうわけではありません。これは大きな差があると言えるでしょう。
また、逮捕されてしまった場合、公務員(特に教育関係の人)は実名報道のリスクも出てきます。
そういった意味でも、逮捕・勾留を避けるメリットというのは非常に大きく、自首が重要であると言えます。
メリットはいくつか考えられます。
まずは、逮捕・勾留のリスクを減少させることが出来るということです。
逮捕・勾留するためには、「この人を身体拘束しておかないと、逃げたり証拠隠滅したりする可能性が高い。」といえる必要があります。
しかしながら、弁護士を伴って捜査機関に自ら出頭した人について、その可能性は低くなるといえます。
次は、違法な取り調べを防止できるということです。
残念ですが、令和になった現在でも捜査機関からの高圧的な取調べ(怒鳴る、机を叩く、脅すなど)は散見されるところです。
また、高圧的とまではいかなくても自己の意思に反する内容での供述調書を作成され、過大に悪質な動機や態様であると判断されかねない証拠が作られてしまうリスクもあります。
もっとも、弁護士が一緒に警察署を訪れ、取調べ室内までは同行できないとしても近くで待機していれば、捜査機関にとってはプレッシャーになりますし、下手な取調べはできないでしょう。
また、捜査官からの質問に対してどう回答すべきか迷ったときには、取調べを中座して待機している弁護士と相談することもできます。
また、③弁護士が同行してくれるので、心強いということも挙げられます。
これから自首する方にとって警察署は敵というわけではありませんが、少なくとも味方ではありません。
自首を心に決めたとしても不安がいっぱいで足取りは重くなるでしょう。
弁護士が同行し、「大丈夫ですよ。」などと勇気づけてくれるだけで、本人はとても心強くなります。
自首をした事件で残念ながら起訴されてしまったとしても、刑法上の自首が成立する場合には「刑を減刑することができる。」とされています(刑法42条1項。)。
残念ながら自首をしたとしても、今回のAさんのように不起訴になるとは限りません。
しかし、仮に起訴されて裁判になったとしても刑罰が軽くなる可能性があるという点で、自首には大きなメリットがあるといえます。
刑事は特に、早急に対応することが重要です。
初動が遅れることで逮捕・勾留されることにつながったり、家族や友人、職場に知られないまま進めることができたかもしれなかったのにそれが叶わなかったりするということもあります。
不安が尽きないことかと思いますが、ぜひ勇気を出して弁護士に相談することをお勧めいたします。
弊所の刑事事件部では、初回無料で相談を受け付けております。